大学院の博士課程には不思議な呼び名がたくさんあります。「研究指導認定退学」「単位取得退学」「満期退学」など、退学の仲間があるのをよく目にしますが、ネットで調べたところ、研究者ですら混乱しているようです。一般的には、謎に見えるどころかネガティブな印象を植え付けること間違いなしです。非常に厄介。
それっぽい説明は、文科省のページに以下のように書いてありました。ネット上で見た感じだと、「研究指導認定退学」は京大でよく使われる最近の言葉だとか?
満期退学/単位取得後退学
用語の整理に関する参考資料
大学院の場合では、大学院の課程の修了要件のうち、当該課程に在学中に、論文の審査及び試験に合格することのみ満たすことが出来ず、当該課程を退学することをいう。
なお、大学院の博士課程を満期退学又は単位取得後退学後、当該大学院に博士論文を提出し、大学院の博士論文の審査に合格した者は、学位規則第4条第2項に規定する者(いわゆる「論文博士」)として扱うこととなる。
そこで、京都大学大学院工学研究科の場合について、今回調べたことをまとめておきます。モデルケースは、在学年数が3年以上で、研究指導認定を受けて退学をしてから、博士論文を提出して学位審査を受ける場合です。なお、この記事の内容は2021年12月時点の情報です。
「課程博士」か「論文博士」か
京都大学では、課程博士の学位の条件は以下の規定で定められています。
第2条 本学大学院の課程(京都大学通則(昭和28年達示第3号。以下「通則」という。)第53条の2の専門職学位課程を除く。)の修了による学位の授与を受けようとする者は、所定の学位論文審査願に学位論文及び論文目録を添えて、当該研究科長に提出するものとする。ただし、博士の学位の授与を受けようとするときは、更に履歴書を添えなければならない。
京都大学学位規定
一方、論文博士というのは、以下のように示されています。認められれば博士後期課程を経ていなくてもよい、ということですね。ただし、審査手数料が別途必要です。工学研究科なら「学識を確認する試問」としてテストも課されているようです。
第3条 前条によらないで博士の学位の授与を申請する者は、所定の学位申請書に学位論文、論文目録、履歴書及び学位論文審査手数料を添えて、総長に提出するものとする。
京都大学学位規定
工学研究科における「研究指導認定退学」についての明確な定義文は見つかりませんでしたが、「研究指導認定退学願」という書類があるので、それを提出した上で退学することを言うのでしょう。そして、課程博士のための予備検討出願手続きの書類に以下の記載があります。
1.出願資格
博士学位論文の予備検討出願手続きについて, 博士学位論文の取り扱いについて
京都大学学位規程第2条(いわゆる課程博士)の規定により博士(工学)の学位を得ようとする者であって、次のいずれかに該当する者。
(1)本研究科博士後期課程に2年6か月以上在学し研究指導認定見込の者
(2)予備検討終了後の博士学位論文の申請日が、研究指導認定退学後3年を越えないことが確実な者
(3)修士課程を修了し、博士後期課程に1年以上在学した者又は見込みの者。ただし、在学年数が修士課程と併せて通算3年以上の者又は見込みの者。(在学期間短縮該当見込者)
上記(2)によれば、研究指導認定退学後3年を越えなければ、課程博士として学位審査を受けることができます。したがって、京都大学大学院工学研究科の場合、研究指導認定退学しても、条件を満たせば、課程博士として学位が授与されます。
「研究指導認定退学」か「修了」か
では、博士後期課程で研究指導認定退学をした後、博士論文を提出して学位授与された場合、最終学歴は何になるのか?博士後期課程の修了要件は、以下のように書かれています。
第50条 博士後期課程の修了の要件は、同課程に3年(専門職大学院設置基準(平成15年文部科学省令第16号)第18条第1項の法科大学院の課程を修了した者にあつては、2年)以上在学して、研究指導を受け、かつ、当該研究科の行う博士論文の審査及び試験に合格することとする。
京都大学通則
これを読む限りでは、在学期間が十分で、研究指導認定を受けていて、博士論文の審査が通れば「博士後期課程を修了した」と言ってよいと考えられます。しかし、確証がないので、教務に確認したところ、学位授与されたときに修了と言ってよいとのことでした。したがって、例えば、2022年3月に研究指導認定退学により学籍を失い、9月に学位授与された場合は、
・2022年3月 京都大学大学院工学研究科博士後期課程 研究指導認定退学
・2022年9月 京都大学大学院工学研究科博士後期課程 修了
と書くことができることがわかりました。
ただし、授業料を払って学籍を学位授与まで延長すれば、上段の研究指導認定退学は学歴から消すことができます。この場合は学歴上は綺麗ですが、その分在学年数は増えるため、就職や異動との兼ね合いでどちらが良いかケースバイケースになりそうです。
実は、下記ツイートにあるように、京都大学大学院文学研究科の場合で似たようなことを調べた方がおられたので、工学研究科でも同じなのかここにまとめた次第です。特に最初は、課程博士なのか論文博士なのか混乱して、なおさら意味がわからず、ようやくすっきりしたので、今後どなたかの役に立ちますようにと。
これが一番の謎なのですが、どうして「2022年3月、京都大学大学院工学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(工学)。」などと書く人が多いのでしょう?上記のような制度を使って課程博士を終了しているなら、シンプルに「2022年9月、京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。」と書けばいいように思います。もしかして、研究指導認定退学後、年数が経ってしまい論文博士で学位を取得している?その場合は「修了」は使えないはずです。もしくは、研究指導認定退学後に学位を取っていない人が実は多いのかもしれません。
それで結局、研究指導認定退学した人の「卒業」はいつなんだろう?